Book & Journey 今回は、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」
この作品について、@めっこ さん@mai(8期) さん、@アーニャ さんの3人と、
チャットで参加の@りょういち 7期生 さんとお話しさせていただきました。
今回私 は、はじめてのファシリテーターでドキドキしながら参加しましたが、皆さん自分からどんどん発言してくださって、とっても白熱した会となりました!
そんな今回のお話を記録と参加できなかった方のために、会話形式のダイジェストで残したいと思います。記憶を頼りに編集するので、多少の違いがあるかもしれませんが、ご容赦ください。
<本の要約>
第三次世界大戦後、放射能灰に汚された地球では生きている動物を所有することがステータスとなっている。本物の動物を手に入れるため、主人公のリックは火星から逃亡してきた指名手配アンドロイドの首にかけられた懸賞金を狙って、ハンターとして暗殺を企てる。映画、ブレードランナーの原作小説で、斬新な着想と多層的な構想のSF小説。
1日46時間の世界って、、、!?
早速、この本を読んで引っかかった点があるとおっしゃっていた、めっこさんから話は始まった。
「この小説では、1日が46時間の世界になっていて。1970年代に書かれた本書は、数十年後の未来を予測した小説だけど、一体どうしたら一日が46時間にも伸びているのだろうと思いまして。
早速、チャットGP Tに聞いてみたところ、どうやら地球と月の距離関係による作用で、1日はほんの少しずつ長くなっているという研究結果があるそうで、二億年後には1日が25時間になっていると考えられるそうです。それが小説の中では核戦争によって環境破壊が深刻になり、それが早められたのではないかということでした。」
「私はちょっと違う意見を持っていて。
放射能灰に覆われたこの世界では、そもそも太陽の光がほとんど届かない毎日なので、1日を太陽の動きによって規定する必要性がなく、人間によって勝手に1日の長さが調整されてしまったのではないかと思いました。」
「なるほど。それにしても1日が46時間になってしまったら、一体労働状況はどんなふうになっているんでしょう笑
最後の方では、主人公も1日の終わりかなりヘトヘトになってましたけど、無理ありませんね笑 約2日分が1日になってしまうなんて、とてつもない世界だなぁ笑」
逃亡アンドロイド=悪という価値観と移民問題
この小説では前提として火星から逃亡してきたアンドロイドは1人残らず殺される運命にある。しかし中には地球に来て歌手しているアンドロイドもいるし、全員が全員、悪さをしに来ているわけではない。そもそも火星から逃亡してきているわけだし、一体なんで地球人はそんなにアンドロイドを嫌っているんだろう、という意見が出た。
「地球人が団結するために、共通の敵として選ばれたのがアンドロイドだったのか、それとも自分より下の人間を作ることで安心したかったんでしょうか。」
「それか、逃亡アンドロイドの一部が悪さをしたことでアンドロイド全体の印象が悪くなり、逃亡してきたアンドロイドは全員殺すといった極端な思想に発展してしまったのかもしれません。これは現代の移民問題にも通ずる話になってきますね。」
アンドロイドにも人権が必要か
この小説世界のアンドロイドは、ものすごく人間に似ていて、ぱっと見では全く区別がつかないまでに精巧に作られている。彼らを区別するためにハンターたちは感情移入度検査を用いる。しかし自分を人間だと思い込んでいるアンドロイドもいれば、自分がアンドロイドかもしれないと疑う人間もいる。主人公も小説終盤で、自分自身にテストをかけるほどだ。
「アンドロイドと人間を最後の最後で分けるものは何なんでしょう?」
「やっぱり慈愛の心があるかどうかですかね。本当の意味で相手に共感したり、感情移入ができるかってところな気がします。それがテストの材料にもなっているわけだし。」
「となると、アンドロイドか人間っていう生物学的な区別は、究極的には必要ないっていうことになりますかね。歌手であるアンドロイドの女性はすごく感受性が強くて人間らしかったし、反対に主人公の仲間のハンターはアンドロイドかと疑うほど薄情で冷酷な人でした。」
「そもそも、アンドロイドか人間か。仲間か敵か。自分にとって良いか悪いか、という白黒思考は絶対に対立を生みますよね。」
「アンドロイドたちにも、機械として5年の命があるというふうにいっているけれど、やっぱり寿命があると考えたら、生命体と言えなくもないのかもしれない。」
「いつかは、アンドロイドにも人権が必要になってくるかもしれませんね笑」
人間の孤独につけ入る資本主義 消えるリアルなつながり
「この世界でみんなが使っているムードオルガン(何百種類とある感情の中で、自分が感じたい感情をダイヤルすることで、自分の感情をコントロールできる機械)ですが、機械に自分の感情するコントロールしてもらわなきゃいけないって、やばいなって思いました。」
「自分で怒りをコントロールするアサーションなどとは真逆の発想で、憂鬱や孤独感を消してくれる便利な機械ですが、”どう感じるか”といった超個人的な領域にまで外部に支配されていては、自分が自分であること自体疑わしくなってきてしまいます。」
「人口が減って、ゴミで溢れた地球はすごく寂しいところとして描かれていて、人々の心の孤独も、現代社会の非じゃないほど膨らんでいるのかもしれませんね。そこに資本主義がつけこんだ、みたいな?」
「自分の存在価値も、生きている動物を持っているかどうかで判断してしまうような人間が多い世界線ですしね。」
「主人公の妻がよく使っている、共感ボックス(自分の感情を大勢の人と瞬時に共有できる機械)も、SNSで何でもかんでもシェアしてしまいがちな現代の進化系と言えそうですね」
「そうそう、主人公が念願のヤギを買い始めた時でさえ、隣にいるはずの恋人とその喜びを共有し合うのではなく、まず最初に共感ボックスのほうに向かいますよね。お前ら恋人じゃんか!隣にいるリアルな人間と喜びを分かち合えよ!って思いました笑」
「たしかに笑」
マーサー教の謎と都合良く使われる宗教
「私は地球の人間たちがみんな信じているマーサー教が、最後までずっと不思議な存在でした。一体あれは何のためにこの本に出てきたのか。共感ボックスの中で、教祖が何者からか石を投げ続けられているという設定も不思議でした。」
「共感ボックスで教祖とつながる時、常に荒廃した岩場を登っている教祖の映像が映りますよね。あれはもしかしたら、本当は生きるために意味なんてない、ということを表しているのではないでしょうか。違うかなぁ。」
「石はどうやらハンターたちから投げられているということになってますよね。基本的に殺生を許さないマーサー教とハンターたちは対立しているということでしょうか?」
「教祖が石を投げられている時、共感ボックスを使っている信者たちも怪我をしているのは、みんなが同じ苦痛を味わうことで、人の痛みを共有しようという、言わばイスラム教のラマダンのような、仏教で言う苦行のようなものなのかもしれません。」
「それに小説終盤では、主人公の前に教祖が現れたり、主人公自身が『俺は教祖と融合した』などと言ってますよね。あの辺もよくわからなくなりました。」
「極度の疲労と自分の存在価値の揺らぎによって、ある種の精神分裂のようなものを引き起こしていたのではないでしょうか?」
「確かに、殺生を許さないはずの教祖が、アンドロイドを殺すことに迷いを感じている主人公に対して『道徳的に間違っていると分かっていても、やはりなさねばならん』、と話していますよね。それは主人公の中でマーサー教が彼に都合の良い方向に捻じ曲げられているということの表れではないでしょうか。」
「確かに、経典を都合よく拡大解釈して、本来の教えとは違う方向に飛躍してしまう歴史もありますもんね。宗教の暗い1面ですね。」
(以下、かなりネタバレになります)
何も信用できない世界
「終盤で、マーサー教は完全なフェイクだった、と発表されますよね。それを暴いて放送したのはアンドロイドで、人間はそれを聞いて動揺する、、、。一体、この世界は誰が権力を握っているんでしょう。そしてこの世界で本当に信じられる情報なんて無いのかもしれないと思いました。そもそも『火星から来たアンドロイド』とか言ってますけど、そんな事実だって存在するのかどうかわからないし。」
「現代でもフェイクニュースの拡散が止められない状況になってますが、このままいくと、この小説世界みたいに一体何が真実なのか、それを判断する材料すら与えてくれない社会になってしまうのかもしれないですね」
「最後の方で主人公が麻薬みたいなの飲んでますけど、実はこの世界そのものが主人公の幻覚だって言う可能性だってあります。」
「まさかの夢オチ!?笑」
映画との違い
「映画は完全にSFアクション映画になってますけれど、小説は、『こんな話だったんだ。全然違うじゃん!』ていうくらい、もっと構造が複雑ですし、多層的で面白い小説でした。」
「そうですよね。最後まで敵か味方かわからないレイチェルという存在も、映画では、”人間とアンドロイドの恋愛”みたいに描かれて終わりますが、もっと複雑な動きをしていて面白かったですね。」
「私はこの本、最初は世界観についていけなくて、すごく読みにくく感じてしまったんですが、途中で映画を見てかなり助けられました。おかげで最後まで読み終えたって感じです。笑」
「確かに、世界観への入り込みやすさは、圧倒的に映画ですね。映像も美しいですし、あと小説ではアンドロイドを殺す場面なんかがほんとに一瞬で終わってしまって、あっけない感じでしたけど、映画ではハラハラドキドキのアクションシーンが長く続きますよね。」
「どちらも違った面白さがあっていいですよね。映画見ながら本を読むがオススメです笑」
~Ending~
こんな感じで、あっという間に2時間経ってしまいました!一冊の本についてこれだけ深く語り合えて、白熱できるのはすごいことだと思います。今回ブログには載せきれなかったお話もたくさんあって、とても濃密な時間となりました。皆さんありがとうございました!!
それではまた、Book & Journeyでお会いしましょう。では、また!