「スラムダンク」は、私にとって人生のバイブル的な漫画です。

私自身、中高でバスケ部にはいるきっかけになった作品であり、その魅力は連載終了から数十年経った今も色褪せません。桜木花道という主人公が、魅力的なライバルたちと出会い、成長していく物語。近年、映画『THE FIRST SLAM DUNK』によって、あの山王工業戦の興奮と感動が、再び鮮やかに呼び起こされたことはいまだ記憶に新しいです。

作中では、マイケル・ジョーダン(→流川楓)やデニス・ロッドマン(→桜木花道)など、井上先生の愛する90年代NBAの要素が散りばめられています。だからこそ、ファンである私は「もしも」を想像してしまいます。

「もし、あの4ヶ月の先があったら?」
「もし、花道がNBAに行ったら、どんな選手になるんだろう?」


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### 2025年NBAプレーオフのペイサーズと「湘北」の既視感


そんなことを考えていた前シーズンのNBAプレーオフ、格上のチームを次々と打ち破って勝ち進むインディアナ・ペイサーズの姿に惹きつけられました。彼らの「チーム全員で走りきるバスケ」は、見ていてとにかく熱かった。

全員が役割を持っていたペイサーズですが、中心選手はタイリース・ハリバートンとパスカル・シアカムの二人です。
ハリバートンのスター性とクラッチタイムでの勝負強さは本物で、プレーオフを通じて漫画(スラムダンク)を超えるような劇的なブザービーターを何度も沈め、ファンを熱狂させました。

そして、その若きエースを献身的に支えていたのがシアカムです。彼はオールスター選手でありながら、誰よりもコートの端から端まで走り切り、その圧倒的な機動力とハードワークでチームを支え続けました。

そして、運命のNBAファイナル。ハリバートンはGame5で負った故障を抱えながらも強行出場して迎えた3勝3敗の運命のGame7。

サンダーに敗れ優勝を逃しただけでなく、ハリバートンがアキレス腱断裂という大怪我でコートを去るという、あまりにも悲劇的な結末を迎えました。
(いまでも怪我のシーンのサムネイルを見るだけで、ちょっと泣きます)

その姿を見たとき、私の脳裏には、山王戦で背中を痛めながらも「オヤジの栄光時代はいつだよ…俺は…俺は今なんだよ」とコートに戻った、桜木花道の姿が重なって見えました。



あのシーズンを通して、TJマコネル(→宮城リョータ)、ニスミス(→三井寿)の姿も含め、私はペイサーズというチームに、湘北高校を重ねて見ていました。 

### 「花道に似ているのは誰か?」という直感


先ほど、あるNBA関連のYouTuberで「桜木花道に似ているNBA選手は誰か?」という議論を目にしました。そこではあるレイカーズの選手などが紹介され、「スタッツからすると確かに」と思う部分もありました。

でも、「ペイサーズ=湘北」という目で見ていた私の中には、それよりも前から密かに温めていた感覚がありました。「いや、桜木花道はパスカル・シアカムではないか?」と。

あのエネルギッシュなプレー、チームのための献身性、スターだけどどこか荒削りさを感じるPFの選手。

その直感を確かめるため、彼のキャリアを調べてみたところ、私は衝撃の事実にたどり着きました。

パスカル・シアカムは、桜木花道に「似ている」どころか、まるで「スラムダンク」という物語そのものを現実で生きているような選手だったのです。

### なぜシアカムは「スラムダンク的」なのか


私が興奮した、彼と花道の類似点は以下の通りです。 

#### 1. 遅すぎたスタートと、常識外れの急成長


スラムダンクの物語の魅力のひとつは、花道が「高校一年生(15歳)」で初めてバスケと出会い、ライバルたちと切磋琢磨、わずか4ヶ月で「チームの主力」の一角として、全国の強豪と渡り合えるまでに成長する濃密なストーリーラインです。

一方、パスカル・シアカムがバスケットボールを本格的に始めた年齢は、なんと17歳のようでした。

それまで神学校に通い、聖職者を目指していた少年が、ひょんなことからボールを手にし、アメリカへ渡ります。その経緯自体が、すでに物語的です。

そこからのキャリアがまた、花道の「ハードワーク」を彷彿とさせます。大学バスケで頭角を現し、NBAドラフトでラプターズに入団した後、下部リーグ(Gリーグ)も経験し、GリーグファイナルMVPを獲得。その後、NBAで猛烈な努力によってさらに才能を開花させ、リーグのMIP(最成長選手賞)を受賞。ついにはトロント・ラプターズの中心選手としてNBAチャンピオンに輝き、3度のオールスターにも選出されました。

そして先シーズン、ペイサーズに移籍してからもそのエネルギッシュなプレースタイルは一切変わらず、ECF(東決勝)のMVPを受賞し、チームを東の王者としてNBAファイナルへ導く原動力となったのです。

さらに、彼のキャリアにはスラムダンクという物語が持つ光と影の「影」の部分も重なります。アメリカへ渡った後、彼は父親の訃報に接しますが、ビザの問題で故郷カメルーンに帰ることさえ叶いませんでした。このエピソードは、桜木花道が(詳細は描かれないまでも)抱えているであろう過去の痛みにも共鳴します。 

#### 2. スキルと「泥臭さ」の共存


彼はNBAのスターであり、もちろん高いスキルのある選手です。203cmの身長と長いウィングスパンを持ち、現代のNBAで必須のスリーポイントも打てます。彼得意のスピンムーブをはじめ、得点のバリエーションも豊富で、1試合30点以上をスコアすることもある選手です。

しかし、私が彼を「好きな選手だ」と強く感じる理由は、そこだけではありません。

彼のプレーから感じられるのは、ルカ・ドンチッチやラメロ・ボールのようなプレイヤーから放たれる独創性的な「天才性」とは違う、元の粗削さが醸し出す「泥臭さ」です。

多彩なスキルを駆使する中でも、その根本にある「リバウンドへの執着」や「献身性」というフィジカルかつ泥臭い精神性の部分に、彼が「後から必死に身につけてきた」であろうハードワークの軌跡が透けて見えるのです。そこに、とても惹かれます。 

#### 3. 「花道の情熱」と「流川のキャリアパス」


さらに面白いアナロジーがありまして。

花道には晴子さんや安西先生という「才能の発見者」がいました。シアカムにも、同郷のNBA選手ルック・バ・ア・ムーティという恩師がおり、彼の荒削りさの中にある「あり余るエネルギー」という原石を見抜き、アメリカへ導きました。

そして、スラムダンクで流川が「アメリカ」を目指したように、シアカムはその「アメリカ」でキャリアをスタートさせました。

つまり彼は、
「桜木花道のような遅咲きのスタートラインとエネルギーを持ちながら、流川楓が目指した『アメリカへ渡る』というキャリアパスを歩んで、NBAに立ったオールスター選手」
と言えるのではないでしょうか。 

### 結論


パスカル・シアカムがコートで見せる、あの献身的でエネルギッシュなプレー。オールスター選手でありながら、誰よりも速攻の先頭を走り、泥臭いディフェンスとリバウンドに飛び込む姿。
チームからするとまさに「タスカル・シアカム!!」

その背景に「17歳から本格的にバスケを始めた」という、まるで桜木花道のような物語があると知った今、彼のプレーの一つひとつが、スラムダンクの「もしも」の続きを見ているような気にさせてくれます。

そんな物語性を知った今、私は彼のプレーにより心を揺さぶられるような気がします。


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ペイサーズは今シーズン、ハリバートンが怪我で全休の影響で今シーズンは厳しい状況です。
が、今シーズン多くのNBAチームがペイサーズの「全員で走り勝つ高速バスケ」を取り入れているように、昨シーズンのプレーオフのペイサーズは多くのチームに影響を与えています。

怪我からより強く・大きくなって帰ってくるはずの姿を心待ちにする、スラムダンク最終話の晴子さんのような気持ちでハリバートンの復帰を待ち、それまで変わらずNBAを楽しんでいきたいです。


おわり