「私は〇〇タイプだから、相性が良いのはあのタイプ!」
「うちのチームは全員このタイプで固めるべきだ!」
Webや職場でたまに見聞きする「MBTI」の話題。
皆さんが実施したのは、大抵の場合、検索で簡単に見つかる無料のWebサイトの診断でしょう。
私も初めにやったものはそうでした。しかし、昨今自分で性格診断を絡めたWebサービスを作ろうと遊ぶ中で、念の為著作権などを調べてみたところ、MTBI診断をwebで実装するには正式なライセンス契約が必要だと判明しました。
更に調べていくうちに、無料診断の正体と、潜むリスクが見えてきました。
### 経緯と気づき:有料と無料の決定的な違い
Webで無料で楽しめる診断は、正式なMBTI®(Myers-Briggs Type Indicator)とは全くの別物です。これは公式が声明を出しています。
* 公式MBTI®の性質:商標登録され、専門家の支援のもと、深い自己理解と成長を目的とした有料の心理検査です。一例では一回1万6千円かかります。深い自己と向き合うために18歳以上の利用で有効とされています。(言い換えれば高校生の診断結果は有効ではないと言われています)
* 無料診断の性質:公式のアルファベット表記を模倣した「MBTIライク」なサービスです。例えば16personalitiesなどは、科学的エビデンスに基づく検証を伴いません。
公式協会は、無料の模倣サービスについて次のように述べています。
>>ユングのタイプ論をもとに開発されたMBTI(Myers Briggs Type Indicator)の正式なMBTIの日本語版は2000年から日本に導入されています。(中略)
しかし、一点だけ、皆さんにお伝えしたいことがあります。実は、こうした簡単に作られた検査のなかには信頼性も妥当性も検証されていないものがあるということです。特に妥当性の検証がされていないということは、その性格検査が「測っている」ものを「ちゃんと測っている」ということについて不明であるということなのです。(中略)お伝えしたいことは、こうした性格検査を受けることで、不利益をこうむっているのは受検されたご本人であるということです。
### 🧐 遊びとしての「許容範囲」と「危険な一線」
「MBTIライク」な診断は、仲間との会話のきっかけや、自己理解の「きっかけ」として楽しむ分には否定をしません。血液型や星座占いで「魚座と蟹座は相性がいい」、「O型とA型は相性が良い」などと盛り上がるのと同様に、日常的な遊びとしては許容できる側面もあるとおもいます。
しかし、その遊びが「危険な一線」を超えると、深刻な問題を引き起こします。
#### 🙅 絶対に避けるべき「危険な一線」
それは無料診断の結果を鵜呑みにし、人生の決定や心の健康を左右されることです。
相性の話も、科学的エビデンスと切り離されている以上、「星座占いレベル」と大差ありません。
もっと踏み込んで言えば、「健康診断を無免許の医師(?)から無料で受けて、結果で一喜一憂すること」と、構造は同じだと思います。
エビデンスがないだけならまだいいのですが、特に深刻なのは、根拠のない情報で心を傷つけられるケースです。
公式声明は、これらの模倣サイトが商標権侵害にあたる可能性を指摘すると同時に、実際に寄せられている深刻な実害について、次のように警告しています。
>>(前略)そもそもMBTIは日本において商標登録されているものであるところ、商標法上、商標権を侵害することは禁じられており(中略)すでに弊協会には、いくつかのサイトをみて、「私のタイプは自殺しやすいタイプとかかれていて、不眠症になった」、「将来このタイプだと貧乏になるといわれ、絶望している」や、「自分のタイプは悪い母親になるといわれ、ショックから抜け出せない」と号泣されながら電話してこられるかたなど、跡を絶ちません。(後略)
人生にとって明らかに有害な情報を、科学的エビデンスのない診断で受け取る必要はないでしょう。
### 🔒 遊びでは済まされない「2つのリスク」
単なる「エビデンスのない診断」というだけでは済まされない、法的・個人情報に関わるリスクも存在します。
1. 海賊版的な側面(商標権侵害):正式なブランドの表記を模倣した「非公式の紛い物」は、著作者の権利を不当に侵害するものです。
2. 個人情報の提供リスク:無料の診断に回答するということは、自分の「パーソナリティ」という機密性の高い情報」を、その運営元に提供しているということです。これは、「誰か分からない相手に個人情報(傾向)を毎度入力している」ことと同義です。16~のサイトの利用規約をみると、個人情報を販売しないとある一方、「当社のスタッフ、代理店、サプライヤー、および下請け業者も、必要に応じてお客様の情報にアクセスする必要がある場合があります。これは、当社の子会社、最終持株会社、およびそのすべての子会社など、当社のグループ企業のすべてのメンバーに適用されます。」という一文もあます。例えばウェブ広告などでこの診断結果を元に、フィルターバブルが強化されるリスクについては否定ができないのではないでしょうか。
### 💡 今後の付き合い方と教訓
無料診断に一喜一憂し、話のネタにするのは楽しいかもしれません。
しかし、もしその結果に少しでも生きづらさやネガティブな感情を抱いたなら、立ち止まってください。それは「占いで悩む」のと同じ状況です。
(占いで悩むことは古来から現代でもよくあることと思います。よくあるからこそ古代の人が戦争を占いで決めていたことを「馬鹿」と一蹴することも出来ないと感じます)
本当に自分を知りたいのであれば、専門家の支援のもと、信頼できる分析を受けましょう。対価をしっかり払って。
* 今後のサービス展開:私の遊びで検討している性格診断サービスでも、「MBTI」というブランド名の使用は避け、論文ベースの「Big Five」や、オープンソースの「Open Extended Jungian Type Scales」などを提供することで、遊びの面白さと信頼性を両立させていく予定です。
最後に、ユーザーとして、そして開発者として。
こうした話題にマジレスすると「空気が読めない」と嫌われるかもしれません。
ですが、AIで何でもサービスが作れてしまう今だからこそ、立ち止まり法的視点でものを考えることが私の習慣になっています。ウェブに公開するのは見ず知らずの他人が見て、書いてあることを解釈され、意図と違うと思っても訂正が難しいしリスクを抱えます。もちろん、世の中に出せるという創作意欲が満たされるリターンもありますが。
私自身がもし、努力をかけて作り上げた成果が、無断で利用され、しかも間違った形で世に広められてしまったら……。それはいたたまれないどころか、声を上げたくなるのは当然のことだと、今、ものを作ろうとしている立場になって強く思います。それが主張できるように、利用規約はきちんと明記する重要性も感じました。
サービスとして世に出す以上、「他者の権利を侵害していないか」「誤解を意図的に誘導するようなものになっていないか」「利用者の心を不用意に傷つけないか」という真摯な姿勢が、重要だと改めて感じました。
おわり。

