※本記事は、OSIRO社のコミュニティ献本企画に参加し、献本を受けて執筆しました。
平野啓一郎さんが、華々しく文壇にデビューされたころのことは、よく憶えています。
読書家の友人が「やたら小難しい文章の書き方をする人だ」と感想を述べていました。
恥ずかしながらそのころから小説を読まなくなったわたしが、はじめて平野さんの著書に触れたのは、このBook Community Liberに入ってからでした。
『私とは何か ー 個人から分人へ』で語られる「分人」という考えかたは、ずっと「本当の自分がない」ように感じて生きてきたわたしにとって、大いに救いになりました。
Web上でお見かけすることはありましたが、平野さんのまとまった文章を拝読するのは、今回で二度目です。
今回、オシロさんの献本企画に参加させていただき、新刊をいち早く読む機会をいただきました。ブックコミュニティならではのアウトプット企画でもあり、ふだんサボりがちなブログ執筆のきっかけにもなりました。いつも楽しい場所を提供してくださる、ブックコミュニティリベル主催者のアバタローさん、そして事務局の皆さまにも、あわせてお礼を申し上げます。
(本を読む以外のことも楽しすぎるコミュニティで困っています)
この本はエッセイ集で、平野さんが各所で発表した文章をまとめたものです。
テーマは多岐に渡り、一見バラバラなのですが、基本的には全体を通して「文学」(もしくは、文字であらわされたもの)に絡めたお話になっているという印象です。
出版は岩波書店さんからで、タイトルがちょっとかたいなぁと感じるのですが、これ、
『平野先生!文学ってなんの役に立つのか教えてください!!』
(装丁では「平野先生!」のところはフキダシをあしらってください)
っていう今風のタイトルにしたらどうでしょう?ダメですか、やっぱり。
***
そもそも、「文学」ってなんですか?
文学が何の役に立つのか、と言っても、「文学」というものの定義が定まっていないと、論がずれてしまうような気がします。
じつは、「文学って具体的に何を指すのだろう」と、かねてより考えていました。
古典として読み継がれると文学なの?
芥川賞を取ると文学なの?
歌の歌詞は文学なの?
ということで、(なんだかみんなやってそうだけど)ChatGPTに訊いてみました。
曰く、
文学とは「人間を深く見つめるための言葉の芸術」です。
とのことです。
【文学の役割】
共感や気づきをもたらす:「自分と同じような感情を抱いた人がいた」と感じさせてくれる。
批判精神を育てる:社会や権力を問い直すきっかけになる。
言葉の力を再発見させる:普段何気なく使っている言葉に、美しさや鋭さがあると気づく。
多様な視点を得る:自分とは異なる背景や人生を生きる人の内面に触れられる。
おっと、何の役に立つかまで教えてくれちゃった。
文学以外にも同様のものが存在すると思いますが、おおむね文学から得られる効用として同意できる内容です。
なお、
エンタメ寄りの作品でも、深い人間洞察や現代的テーマがあれば「文学性がある」と言えます。
つまり、「売れている=文学じゃない」ではなく、「表現やテーマが深いかどうか」が文学性の鍵です。
だそうで、ChatGPTが言うことには、『キノの旅』『涼宮ハルヒの憂鬱』『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』は文学作品で、異世界転生チート無双モノは文学ではないそうです(笑)。
なんだか「個人の感想による」ところも大きい気がするので、こんど微妙なラインのタイトルを持ち寄って、「この作品ははたして文学か?」をみんなで話合うイベントでもやろうかな。イベントタイトルは【文学ギリギリChop】で!
***
平野さんにとっては、「文学は正気を保つために役に立つ」もの、とのことですが、わたしにとって「正気を保つ」ために役に立ってると感じるものは何かな、と考えたとき、それは「科学」ではないかと思います。
では、わたしにとって文学が何の役に立っているのかといえば、端的に「面白いと感じる、興味深いと感じる、なんだかわくわくする」ということ、つまり「好奇心を満たす」こと。
それより難しい何かではないような気がします。
結局のところ、「文学が役に立つ側面」というのは(こういったら身も蓋もないけれど)その人それぞれ、本当にひとそれぞれであって、その多様性がゆえにこうして、こんにち文学が「文学」としてわたしたちの身近にあり続けるのだと思います。
これは、芸術にもおなじことが言えそうです。
また、この論では、あくまでも「文学を受け取る側」にとって「何の役に立つのか」ということが語られますが、読者にとってではなく、文学作品を世に送り出す作家として「文学は何の役に立つのか」ということも問うてみたい。
平野さんにとっては、きっとこちらも(もしかしたらこちらのほうが)「正気を保つため」に役立っているのではないか、と思います。
自分の思考整理し、正気を保つために「書く」。書かずには正気を保てない。そちらのほうが、なんだか理解できるような気がします。
そして、この「エッセイ集」という思考のアウトプットのまとまりを読んで(読み返して)、いちばん有用に感じるのは、もしかしたら著者ご本人なのではないでしょうか。
#文学は何の役に立つのか?
#BookCommunityLiber