キルケゴールの「死にいたる病」について調べていたら、見つけた小説。
映画化もされたらしい。
凄惨なシーンが多いので顔をしかめながらも、一気に読んだ。


鬱屈した大学生活を送る雅也は、連続殺人犯の大和から冤罪の証明を頼まれる。戸惑いつつ調査する雅也が辿りついた驚愕の真実とは。(内容紹介より)


犯罪心理学においては、人間が犯罪を犯す理由として「環境説」と「遺伝説」があるらしい。

連続殺人鬼がしばしばそうであるように、大和も、情動的共感能力に欠け、認知的共感能力に長けた人物。つまり、相手の心理を理解する能力は高いが、相手を思いやる能力は低く、心の隙につけこみ、自分の目的のために利用する術に長けている。

そうした特性は遺伝的な要素もあるだろうが、大和は幼少期から身体的・精神的虐待を受けて育っており、環境的な要因もあるのかもしれない。

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ただ、そこで疑問なのは「情動的共感能力は育てることができるのか?」ということだ。

愛情を受けながら育つことで、情動的共感能力は育つのだろうか?
本書では様々な実在した連続殺人鬼も引用されているが、彼らは一様に不遇な生育環境で育ってきたらしい。



共感についての心理学知見を調べてみると、
「共感の発達に関する研究の概観と展望」という論文を見つけた。
https://kwansei.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=27951&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1 

現在広く用いられている共感性を調べるテストでは、共感を4側面から測定する。

・視点取得:自発的に他者の心理的立場を取ろうとする傾向
→認知的共感

・個人的苦痛:他者の苦痛に対する自分の苦痛や不快を経験する傾向
・共感的配慮:同情や憐みの情動を経験する傾向
・想像性:自分を架空の状況の中に移しこむ傾向
→情動的共感

この論文によると、

同情的な表情や言葉かけなどの共感的配慮といった他者指向的な反応は,ほとんど全ての研究において 1 歳時から 2 歳時にかけて増加することがわかっている。    78p

らしい。


情動はそもそも測定可能な指標ではないだろうから正確な回答は得られそうにないが、恐らくは情動的共感能力は生育環境により影響を受けるのだろうと思う。

でも、仮に情動的共感能力が低かったとしても、認知的共感ができて、そして自分の利益だけのために他者を利用する「邪悪」を節制する自制心があればよいのかもしれない。
  (ジョジョの奇妙な冒険 56巻)