モラルの起源-実験社会科学からの問い】 

本ブログでは、本書の概要をざっくり述べた後、本書で触れられている「ゴシップ」と「共感」について私見を書いています。

本書の概要

本書は、「人の社会を支える」人間本性を、実験社会科学を用いて検討した本です。

実験社会科学とは?
確立した定義はないものの、本書ではフィールドワークやコンピュータシミュレーションなどを含む実験によって、人間の行動や社会のふるまいを検討することを指しています。

さて、この本はは5つの章に分かれています。各章の概要はこんな感じです↓

第1章:ヒトはどのように環境に適応するのか?
・適応には3つの時間軸がある(進化時間、歴史文化時間、生活時間)
・適応すべき環境は「群れ」の生活である

第2章:昆虫との社会性の比較
・昆虫は行動の同調と評価の独立性により、群れ全体のパフォーマンスを上げる
・ヒトは群れよりも個体の利益を最優先する傾向にあるため、評価の独立性が担保されづらい

第3章:協力関係の作り方
・個人の利益と社会の利益は時にバッティングするため、社会規範を守らせることが集団の維持に必要で、その方法の一つに制裁装置の保持がある
・制裁装置にはコストがかかるため、ただ乗り問題が発生しうる。その防止のために罰を予告したりすることもあるし、人間は感情的ドライブで罰行動を行いやすい
・人間がゴシップを好むのは、互いの連帯感を深めるほかに、その場にいない他者の「本当の利他性」を知ることが集団の維持に重要だからである

第4章:共感する心
・共感は、模倣、情動の伝染、思いやり行動などを含む重層的なシステムである
・模倣は、相手の心を理解しようとする「身体化された認知」の働きを持つ
・情動の伝染(情動的共感=ホットな共感)は近しい相手ほど起きやすく、イヌなどの他種であっても起こるが、自他融合的であり情動に圧倒されるリスクも孕んでいる
・一方、認知的共感(=クールな共感)は自他分離的であり、相手の心的状態を推論することで行われる。異質な相手に対する利他性は、認知的共感により担われるかもしれない

第5章:社会はどうあるべきか
・社会システムには大きく「市場の倫理」と「統治の倫理」がある
・「市場の倫理」は内外の集団と等しく付き合うことを推奨し、「統治の倫理」では内集団とだけ協力することを好む。一つの倫理だけなら協力的社会になるが、二つが拮抗するとうまくいかない
・功利主義による最大多数の最大幸福を目指した選択も、ロールズ主義的な最小を最大にする選択も、いずれも「最不遇状態への関心」が共通している
・正義の実現の一つの方法として、功利主義が国境の壁を越えた共通基盤になりうる。理想論ではなく、実用主義的な視点が必要である
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感想①:ゴシップについて

人間がゴシップ好きなのは狩猟採集民の時代から変わらないそうです。
ただ、僕はゴシップはあまり好きではなく、職場でそうした話題が出ると苦笑いしながらそれとなくその場から離れることが多いです笑。

ゴシップが連帯感を高めるみたいな話は前にも聞いたことがありましたが、ゴシップの「他者の利他性」を推し量るという機能は初めて聞いたので印象的でした。

今度職場でゴシップが出たら、「この人たちは、他者の利他性を推測するという集団の生き残りをかけた戦略を取っているんだ」と前向きに解釈しようと思います(^^)/

*ちなみに、以前紹介したコミュニケーション論の本ではゴシップについては詳しく記載がなかったのですが、うわさ全般のこととか、それ以外のことはいろいろ載ってて面白かったです。

感想②:共感について

2種類の共感で思い出したのは、とある研究の論文です。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mededjapan/47/5/47_322/_pdf

この研究は「医学生や研修医の共感を減少させる要因は何かを明らかにすることを目的とした」、インタビューによる質的研究です。

背景にはこういった事情がありました。
医師が共感的態度を示すことは重要だが、医師は経験を積めば積むほど共感ができなくなる。なぜこうしたことが起こるのか?」

しかし研究の結果わかったことは、
経験を積むと情動的共感は減る代わりに、認知的共感は増える
ということでした。

本書でも対人援助職に重要なのは情動的共感よりもむしろ認知的共感だと書いてあり、
点と点が繋がった感じがしてうれしくなりました。


LIBERに参加し早4か月、B&Jなどのイベントはほとんど参加できませんでしたが、ブログでコメントをいただくことが励みになり、自分なりに続けることができました。
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